第199回 身体を使ったコミュニケーション 

 コロナ禍での東京オリンピック2020、東京都新型コロナ感染者が過去最多の三千人を越えたとの速報の中、女子柔道70キロ級準決勝・新井千鶴×マヂナ・タイマゾワ(ROC)の手に汗を握る死闘が行われていた。寝技で決めたい新井選手が十六分経過したところで“送り襟締め”を決め、新井選手の一本勝ちとなったが、タイマゾワ選手は動かない、落ちて意識を失っていた。

 柔道の試合中継を毎日見ていると、力で強引に技を掛けているが、瞬間的にきれいに技が決まることは少ない。技の掛け合いをすると、このようになるのは必然のこと。試合形式を取る要請を拒否した合気道で良かったと思う。合気道の場合、稽古相手は協力者で、技を競う相手ではない。技を競う気持ちを全面に出して稽古すると、稽古は成立しなくなる。稽古中は、“受身を取ってもらっている”という気持ちを忘れてはならない。

 摂氏三十度を超える炎天下、全身汗まみれで草取りをしていると、頭に浮かぶのが過去に経験した嫌な思い出ばかりで、良かったことや楽しかったことは浮かんでこないのが不思議だ。辛い時には辛い思い出なのかと思う。初対面の人と稽古することが多い講習会などの、希少な体験を思い出すことが良くある。滅多に遭遇することはないのだが、入身投げの受身で背中が畳に着く瞬間に手で押され、呼吸が出来なくなったことを思い出す。広い世間に狡い人間を沢山見てきたが、合気道の世界も例外ではないようだ。合気道の稽古を通して、“謙虚にして驕らず”、“受身に感謝”を学ぶことが大切。そして、“誰よりも多く稽古を積むこと”、“日々反省を繰り返すこと”で技を磨き、相手に有無を言わせない圧倒的な強さを身につけることが、何よりも大切な事だと思っている。

 しかし、講習会には良いことも多いが、力で強引に技を掛けようとする人には閉口する。このような状況でも受身を取ってくれることへの感謝の気持ちは忘れないことだ。合気道は身体を使ったコミュニケーション、気持ちは伝わるもの。

2021年7月31日 | カテゴリー : めざせ達人 | 投稿者 : koukikai