第198回 目付の事

 七週間もの長い間、稽古のない生活が続いたおかげで、これから合気道を中心とした生活リズムを再構築しなければならない。以前と同じ生活に戻したのでは進歩が無いので、改善を加えたものを、と思っている。また、新型コロナ感染予防ワクチンの接種率が進む一方で、感染率の高い変異株に注意しながら稽古しなければならない。

 『目の付やうは、大きに広く付る目也。観見二つの事、観の目つよく、見の目よはく、遠き所を近く見、ちかき所を遠く見る事、兵法の専也。敵の太刀をしり、いささかも敵の太刀を見ずと云う事、兵法の大事也、工夫有るべし。(以下略)』これは、宮本武蔵著『五輪書』の「兵法の目付と云事」の一節。

 この目付のこと、合気道の稽古においても、故山口清吾先生からご指導頂いている。正面打ち一教において、相手と対峙した場合どこに目を付けたら良いか、山口先生は“足下から”という言葉を良く使われていた。「相手の足下から全体を見る」ことを説明されていた。また、私は目の置き所として、経験から相手の目ではなく眉間に目線を向けるようにしている。相手の目を見ると、相手の気迫が勝っている場合は、相手の気勢で自分の身体が動かなくなってしまうからだ。逆に自信があれば、目で相手を制することができるのかもしれない。

さらに、相手の正面打ちの手を受ける場合においてだが、相手の打ち下ろす手を見てはならない。一点を見ると他が見えなくなる、上を見ると下が見えなくなる、目線は真っ直ぐにし、相手の全体の動きを捉えるようにする。そして、自分の上げた手を下ろしながら、相手を貫いて突き進む。このように私は、正面打ち一教の技における「ちかき所を遠く見る」ことを理解している。

 最後に、『常住此目付になりて、何事にも目付のかわらざる所、よくよく吟味あるべきもの也。』と結んでいる。平素からこのような目付を心掛けていれば、どのような時でも物事の本質を見極めることが出来ると、武蔵は言っている。

2021年7月4日 | カテゴリー : めざせ達人 | 投稿者 : koukikai