第103回 いまがベストか

これまでに、天ぷらを食べに行くという習慣はなかったが、一度食べてみたい天ぷら屋さんがある。当代随一の天ぷら職人「みかわ」主人の早乙女哲哉さんが揚げた江戸前天ぷらだ。自らをアーティストと称し、百三十歳まで現役を貫く覚悟を宣言されている。

他人から当代屈指の天ぷら職人と言われるようになった今も、さらに上を目指し努力を怠らない姿勢がある。「いまがベストか、いまやっていることは、ベストなのか」と常に問答を掛けておられる。

早乙女さんが二十二歳のころ、店長を任されたとき、カウンターに立っただけで手が震え、お客さんに笑われてしまうほどの小心者だったそうだ。店長なのだから、恥をかいても良いから前に進もうとするが、一所懸命すればするほど手の震えは酷くなる。開き直って逆に手を揺すってみたが、今度は手が思うように動かない。お客さんの前でいい格好しようとした自分を解放し、恥をかくのが一体なんだという心境になれた時、悩みは解消されていた。恥を知る人間は。失敗することの怖さを知るからこそ、あらゆることを自分のものにしようとすると言われている。

私が共感した早乙女さんの言葉を紹介したい。

・仕事を覚えに行くんじゃないんだよ。その店へ、我慢を覚えに行くんだ。我慢を覚 えたら、もうその時にはちゃんと仕事も覚えているから。

・皿洗いひとつするのでも、この皿は何手で洗えるか、どこからどう洗っていけば、 百パーセントきれいに洗えるかを考えていくことが大切なのです。

・真のクリエーターとは科学者であり、数学者であり、なおかつ優れた感性がなけれ ばいけない。

早乙女さんの記事を読んだとき、ひとつひとつの言葉が染み込んできた。天ぷらとしてではなく合気道にその内容は変換されていた。「いまやっていることがベストの稽古方法か」、「できることを怠けていないか」問い続けていかなければならないと思っている。

 

 

 

2013年7月1日 | カテゴリー : めざせ達人 | 投稿者 : koukikai