この季節は人里に熊がよく出没しニュースになる。『クマというのは器用貧乏らしい。木に登れば穴も掘り、泳ぎもできるが、何でもできるのは何でもへたなのと同じ。木登りはネコに、穴掘りはアナグマに、泳ぎはカワウソに及ばない(略)』朝日新聞の「天声人語」が目にとまった。器用貧乏というのは、何でも器用にこなせるとあれこれと気が多くなり大成しないということ。
器用であれば、たいした努力を必要としなくても何でもこなしてしまうので、あれもこれもやってみたくなる。色々なことに挑戦をしてみると、やはり何でもできてしまう。しかし、年老いて、自分自身を振り返ってみると全てが中途半端に終わっていることに気付く。“木登り”も“穴掘り”も“泳ぎ”もその道を専門にしてきた人にはかなうはずがない。
映画「火天の城」で、若い不器用な大工が失敗したとき、“不器用な人間は必死で工夫して進歩する。棟梁もそうだった”と先輩に慰められる場面がある。クマの話と重なった。上達することに必死に取り組み、乗り越え、成功するという一つのパターンがある。クマに足りないのは何だろうか。器用な人間は成功できないということにはならない。クマが木登りだけに集中することができたとき、ネコになれないとも限らない。
稽古においてはどうであろうか。一つの技を習得するのに簡単にできる人と何度繰り返してもなかなかできない人がいる。簡単にできる人は目標を高くし、なかなかできない人は探求心をもって壁を乗り越えなければならない。稲盛和夫さんによると成功のための方程式は「考え方×熱意×能力」という。能力が低い場合は、考え方を改め常に熱意を燃やし続けなければならない。そのためには稽古は休まないこと。