第59回 九年後

稲盛和夫さんによる成功の方程式 { 成功=考え方×熱意×能力 } において、最も不安定な状態にある要素が熱意。熱は冷めるものであり、窯の温度を一定に保つためには、焚き木を絶やすことなく燃やし続けなければならない。長時間同じ姿勢を保つ事が困難なように、それは容易なことではない。私にも九年間という長い空白の期間があった。

昭和五十四年四月のこと、福山に転勤となり故川瀬元一先生の信抜流居合、佐分利流槍術と出会った。しばらくして広島県支部の中国新聞文化センター福山合気道教室を任されることになったが、体操服姿の若い女性三人と小学生一人の初心者ばかりの教室だった。どんな稽古をしていたか記憶がないが、会員を増やす事ができない事に責任を感じ、指導者を辞退した。これがきっかけで合気道まで止める展開になってしまった。

合気道の代わりに夢中になることができる居合と槍があったことと、誰に相談をすることもなく一人で結論を出してしまったことが合気道から離れる原因となった。このとき合気道を始めて十年目だったが、何の未練も感じる事はなかった。むしろ、肩の荷が下りたような感じだった。

その後、広島転勤とともに川瀬先生との距離も遠くなったが、何度か府中まで休暇を取って稽古に出かけることがあった。しかし、これにも無理があり長くは続かない。そして全く剣を取ることもなくなったある日、自分には何も無いことに気付き、合気道の再開を決意。その時、偶然にも東区スポーツセンター日程表に山口清吾師範講習会の予定を目にすることになったが、山口先生との再会に九年の歳月が経っていた。

いつまでも熱を保ち続けること、燃やし続けることの難しさは自分自身の経験からよくわかっている。困難になったら、しばらく休むのが一番良い。

 

 

 

2009年11月1日 | カテゴリー : めざせ達人 | 投稿者 : koukikai