暖房設備のない冷え切った道場に、ようやく暖かい陽射しが差し込む様になったが、春が厄介な花粉を連れてやって来る。これから環境が変わり人も変わろうとしている。新たな出会いを期待しているが、学校生活を終え巣立って行く子も居る。十一年前の七才で入門し、高一から入門部と少年部を手伝ってくれるようになり、高三で初段を取得した。会員の皆さんから愛され、アイドル的存在だった。東京での成功を祈るばかりだ。
どこの道場でも稽古の始めは師範が技の手本を示し、それを見て全員が相対稽古を始める。ところが、稽古を始めようとすると“受け”が技を間違える光景を目にすることが有る。片手取りの技なのに正面打ちで攻め、相手に言われて初めて気付く。この光景は年令には関係なく見かける。手本を最初から見ていたとしても、目には写っていたが意識されていないのではないかと思われる。
視線を追跡し分析するアイ・トラッキングと言う技術を使用して視線を追っていくと、プロの写真家やアスリートは、アマチュアより何倍も視線を動かしており、広い視野で色々なところを見ていることが分かっている。興味深いのは、プロ野球のバッターはアマチュアより速くボールから目を離し、その後は予測しているということだ。ボールの軌道を予測することが出来て、しかもバットに当てることが出来るというのがプロとアマの違いのようだ。
プロやアスリートとアマチュアの違いは、合気道の初心者と有段者の違いにも当てはまることだと思われる。合気道の稽古時間、稽古した相手、稽古した技の数は高段者ほど多く、その差は限りなく大きい。その差を埋めることが出来るのは稽古量と、もうひとつは“気付きと修正能力”だと思う。見て気付く、言われて気付く、それを直ちに修正できる力を養うことが合気道の稽古だと考える。