第238回 握らない

 私の父も、山口先生と同じ七十二歳でこの世を去り、私にとってこの年齢は関所だと思っていたが、お陰様で何とか通過することが出来た。次は母の九十六歳で私は演武すると決めた。(ただ、老害にならないことを願うのみ)

 川島英子さん百歳、創業六百十五年の塩瀬総本舗三十四代当主を務め、二十五年前に会長に退いたが、今も上生菓子のデザインだけは、全て自分で手掛けている。毎朝、来客や仕事の相談に備え、着物に着替え、気持ちを切り替えて一日が始まる。この日常の習慣が健康の秘訣になっているとのこと。時代に取り残されない為、お菓子の卸売りだけの仕事から、小売りを始める決断をした川島さんの言葉。『人生で一番大事だと思うのは、こだわらない、握らないことですね。握らないっていうのは欲をかかないこと。握ろうとすると逃げるの。だから、握らない。追いかけない。放すことです。こだわりすぎると運は開けません』また、ご自身の経験からの言葉。『ご先祖様を大切にして感謝を行動で示す、それも見返りを求めずに誠心誠意尽くすことによって、目に見えない不思議なお力添えに恵まれ、人生を何倍にも大きくしてくれるんです』

 川島さんの言葉は、合気道の極意のようにも聞こえてくる。“こだわらない”はまさに山口先生の合気道。また、“握らない”という言葉は見事な表現だと思う。“握る”とは金品、地位、名誉等を手に入れようと欲を出すこと。この“握らない”という言葉も、山口先生の合気道と一致すると考えている。ただ、山口先生から握らないという言葉で技の説明を聞いたことは記憶に無い。

 合気道の最終段階では、握って投げる・抑える、握らずに投げる、この二つがある。関節技では早い段階から握ることになるが、触れた瞬間に握ることは少ない。握ることで相手を意のままにコントロールしようとし、力で強引に型にはめ込もうとする。また、相手の変化に対応できなくなる場合があると私は考える。

2024年12月2日 | カテゴリー : めざせ達人 | 投稿者 : koukikai