第196回 落ちることを知る

 先月のことだが、テレビのニュース番組で体操競技の内村航平選手のインタビュー映像が流れていた。あまり関心の無い体操競技なので、内村航平選手をネット検索してみた。昭和六十四年生まれ三十二歳、日体大卒業、ロンドン・リオデジャネイロオリンピック2大会連続個人総合優勝、リオデジャネイロでは鉄棒の演技中にぎっくり腰を発症しながらも、みごと着地に成功し、二位と0.099点差で大逆転優勝、まさに超人といえる。昨年は満身創痍で良い成績を残せず、世界選手権日本代表から外れたが、先月の全日本選手権では種目別の鉄棒ひとつに絞り、高得点で優勝し、オリンピック代表の可能性を残した。

その時のインタビューが、『練習でどれだけ落ちるか、本番で落ちないために、こうすれば落ちることを知ること。』という内村航平の言葉を聞き、超一流選手の考えが、私の考えと違わないことに大きな喜びを感じた。

 内村航平選手の言葉を合気道に置き換えると、『稽古でどれだけ斬られるか、実戦で斬られないために、ここで斬られることを知ること。』どこで斬られるか、どこで当たるか、これを知る稽古をしなければならないということ。確実にかわすことができるまで斬られてみる、当たってみることが必要というのが私の考えだ。

 子ども達の相対稽古で、杖の突きを入身してかわす稽古をすると、突きが当たらないように気遣ってしまう。相手を的にして突くことができない。剣、杖をゆっくり動かす素振りを行っているが、結果は同じだ。対策として、一回目は入身せずに当たり、二回目に入身して突きをかわすことを試みている。

 稽古でしか、斬られるところ、当たるところを知ることはできない。意味のある型稽古するためには、正確な間合い、正確な攻撃と正確な見切りが必要。剣、杖の扱いが巧みな上級者と稽古出来るときは、かすめる程度に当たってみることが必要と考えている。何度も当たり、斬られるところを身体で覚える稽古ができる相手を見つけることができれば、これ以上の稽古相手はない。

2021年5月7日 | カテゴリー : めざせ達人 | 投稿者 : koukikai