第224回 見計らい

 先週末、広島県合気道連盟主催の講習会が二日間にわたって開催され、当会からは三名参加した。私自身、参加したい気持ちはやまやまだが、体力上、今は叶わぬ願望となった。初対面の相手ばかりであり、自分を試す最良の場所、自分を知る最高の機会だ。積極的に初対面の良き稽古相手を見つけ、その人の側に陣取り、始まる前にそっと“お願いします”と言ってみる。そして、一回目の投げ技が重要で、相手がどのような反応をしたか、受けを取ったかを見定め、それを素直に受止め、そこで自分の力を知ることができる。何よりも一回目の技が大切。

 講習会では指導師範の技は、自分の習った技と若干異なることが多い。師範の技を無視して、自分流を通すことは、指導師範に対する礼を欠く行為であり、慎むべきことだと思っている。講習会の時間だけは自分の技を捨てなければならない。自分の技を捨てられないようでは、自分を改革し上達することは難しいのではなかろうか。習うとは、自分をゼロにして、相手を受け入れることだと考える。

 歌舞伎義太夫の竹本葵太夫さん、令和元年に五十八才の若さで人間国宝に認定された。一般家庭に生まれ高校卒業後、研修生として歌舞伎音楽の道に飛び込み修行された。『楽屋の用事、雑用がきちんと出来なきゃいけない。師匠の着替え、師匠のお茶出し、このタイミングを間違えないように出来なければ、舞台で俳優のタイミングを見計らうことが出来ない。全部繋がっています。お茶出しが下手な人は舞台でも機転が利かない。見計らいは思いやり、この思いやりの心を持って、心技体の中でまず“心”を正しくしなければならない。』と言われている。

 私達の合気道の稽古においても、同じだと痛感する。楽屋は道場、この空間を共有する時、稽古相手への、仲間への思いやりの心を育むことが合気道の上達に繋がる。ある程度上達すると、自信が持てるようになる。しかし、“これでうまいことやっている”と思えば成長は止まる。これを歌舞伎義太夫では“仏芸”と言う。

2023年10月6日 | カテゴリー : めざせ達人 | 投稿者 : koukikai