「聞き取れないボソボソ声」。自分だけかと周りの人に聞いても、皆んな言われていることが分からないという。その上、他の師範のようにきまった型の稽古ではない。はじめは一つの技の説明から入られるけれど変化してしまい、何をどのように稽古してよいか分からず、戸惑っているとスッーと来られて投げ飛ばされる。いくら受身をとっても、いつ・どのようにされて投げられたのか・捌かれたのか、一向に判りませんでした。それがまた何とも言えぬ快感である。「グシャッ」という感じでボロ雑巾のように投げられても、とにかく心地よい気分で至福感を味わったものです。ところが翌々日になって身体の節々が痛んだのには閉口したものです。
 吸い込まれるようにフワッと地上30センチ位のところで一回転させられる。そうかと思えば、手が添えられ触れているだけなのに、どんなに足掻いても逃れられない。師範の受身は、弐〜参段以上の者が指差されてするのですが、師範の背筋はピッとして実に見事なのに対して、足元ではジタバタと、本人は真剣なのに滑稽にさえ見えてしまう。