山口先生の思い出
 私が山口師範のことを知ったのは、昭和52年「正食」(正食協会刊)という"食養=食事療法"雑誌に掲載されたものでした。その頃、なんとなく神秘的な武道としてみられていた合氣道が、よく知られるようになってきた頃だったと思います。しかし"試合のない"合氣道に関する記事や資料は余りありませんでした。それだけに2〜3頁の写真入記事をむさぼるように何度も読みました。その体捌きの実に自然で、どこにも力みのない姿勢に驚き、「私もこの様な体捌きが出来たら、否、ぜひしたいものだな」と思っていました。
 やがて、広島県支部で直接手を取って稽古して頂ける機会に恵まれました。前載記事「我即宇宙の体現」にあった内容に「道場中央で、何かボソボソと聞きとれない声で、稽古をつけているその人が山口清吾師範であることはすぐ分かった。……」「……(山口師範の技は)実に速く、実に的確に決まり道場生が右に左に飛んでいく。どんな技を、どう仕掛けたのか、素人目にはさっぱり分からない。余りにも速すぎる。……山口師範は説明しながら技を掛けるのだが、声には荒々しさが微塵も無い。普段と変わらないであろう声で淡々として技を掛け、相手を投げ飛ばしている。投げ飛ばされた相手はビッショリと汗をかき大きく肩で息をしている……」。さすがプロの記者の文章は上手い。稽古はまさにこの描写の再現でした。