毎月発行する新聞「めざせ達人」から掲載しています
コラム/めざせ達人
めざせ達人
第236回 叱ること
私事だが、夏休みに娘と幼稚園児の孫二人がやって来る。今年も、娘が子どもを叱責することはなかった。どんなに大声で泣いても、悪いことをしても、叱ることなく、納得させようと子と対話するが、私としては何故叱らないかと見ている。我が子であれば叱ることに抵抗はないが、他人の子であればそうはいかない。稽古に於いても、感情を押さえ言葉を選びながら話をしなければならない。
世界のホームラン王、王貞治さんは合気道にも縁がある。王さんの打撃コーチだった荒川博さんは、昭和三十一年入門から開祖植芝盛平翁の直接指導を受けており六段位を持ち、四十年の修行経歴がある。バットを日本刀に変え、一本足打法で素振りする王さんの昔のCMを思い出す。王さんをホームラン王に導いたのは荒川さんの過酷な特訓だった。合気道の寒稽古にも参加したようだが、試合前も試合後も荒川さんが“よし”と言う迄特訓は続けられ、夜はいつも十二時を過ぎたそうだ。プロの世界一を成す汗の量は想像出来ない程だ。成果が出るのは八ヶ月後、ホームランを量産し、前年の九本から三十八本でシーズンを終えた。
一本足打法が完成するまでは、荒川さんから人間扱いされていなかったと云うが、特訓の最初から“ホームラン王”、“三冠王”を言葉に出して洗脳されたことで、自分から積極的に練習に取り組むようになっていたそうだ。但し、一度も褒められたことは無かったと王さんは云う。荒川さんは、褒め言葉ではなく、明確な目標を言葉で言い聞かせ、洗脳することでやる気を引き出した。
プロでもアマチュアでも褒められると嬉しい、褒められたことは何時までも心に残り、やる気も出て来る。稽古では出来ないことが有れば、出来るまで続けることが一番大切だが、迂回して出来る方法を探り、別ルートで導く方法を考えることも必要なことが有る。出来ないから叱るのは良くないが、礼儀に反することだけは黙認できない、その場で叱りを受けなければならない。合気道の根底に有るのは礼儀であり、相手を敬う心、これがなければ稽古は成立しない。
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