第154回 自反尽己

初めて耳にする言葉だが、自反尽己(じはんじんこ)という言葉がある。孟子(もうし)の説く「自反」に、安岡正篤氏が「尽己」を加えたのだそうだが、意味は、自らに反(かえ)り己(おのれ)を尽くすこと。つまり、指を相手ではなく自分に向けすべてを自分の責任ととらえ、自分の全力を尽くすこと。

ただ、今の世の中、すべて自分の責任とすると損をすることがある。車の接触事故などでは、“すみません“と安易に言うべきではないと良く言われる。相手に悪意があった場合につけこまれてしまうからだ。

車の事故のような場合はともかく、大きな成功を遂げた人は、失敗を人のせいにするのではなく、自分のせいにする傾向が強いと言う。例えば、ノーベル賞IPS細胞の山中伸弥教授は、「うまくいった時はおかげさま。うまくいかなかった時は身から出た錆。」を信条にしてきたそうだ。また、松下幸之助も同様のことを言っている。

とかく失敗した時、うまくいかなかった時は、人のせいにし、責任から逃れようとする、その方が楽だから。自分自身の過去を振り返ってみると、大きな失敗において、自分の責任として捕らえたことは一度もなかった。失敗を他人のせいにしてしまうと、失敗の原因は他人にあり、問題点・解決策について考えることを止めてしまうことになる。

合気道の相対稽古では、技がうまく掛からないことがたまにある。この場合、掛けた技が失敗だったのか、受けが下手なのか、どちらかに原因がある。たとえ、受けが未熟であっても受けが悪いからと考えてしまうと、自分自身を省みる機会をなくすことになる。自ら進歩を妨げてしまう。また、悪意による受身拒否の場合もあるが、決して相手のせいにしてはならない。そのような事態を招いた自分を反省しなければならない。相手を読み取る力の不足、自分を表現する力の不足、瞬時の判断力不足などなど、自反尽己で、めざせ合気道達人を!

 

 

 

2017年10月1日 | カテゴリー : めざせ達人 | 投稿者 : koukikai