第209回 関係ない

 五月、第59回全日本合気道演武大会が行なわれた。今年も多田宏師範九十二才の元気な演武を見る事ができた。時折、姿勢を正される場面があり、その前後の顕著な変化に多田師範の心意気を感じた。二十年後、九十才になっても多田師範のように演武できる身体を維持できるかどうかと考えると、全く自信が無い。

 六月になって、堰を切ったように四名の新入会員があり、入門部が一気に活気づいた。稽古前に雑巾がけを行うが、横一列に並び両手両足で雑巾を押し進めて行く。最初は力の入れ方のコツを掴めず、畳に顔を打ち付けることもある。雑巾がけも技の一つと考え、手を抜くことは許されない。

 入門者は、座る、立つ、構える等から始め、受身、膝行、転換を覚えることになる。この基本が正確に出来なければ、技の習得にも影響を及ぼし、基本部分の修正に戻ってしまうので、上達の為には確実に覚える必要がある。修正箇所を注意された時、一度で修正できる子どもは稀で、同じ事を何度も、繰り返し、繰り返し、言い続けなければならない。それでも、注意されれば、その言葉を受け止めてくれる。しかし、予想外の「関係ない」という言葉を返してきた子が居た。その子への指導の限界を感じたが、子ども達に何を指導していくかを考え直す出来事だった。

 挨拶・返事が出来るようになること、綺麗なお辞儀ができるようになること、師に対する礼儀をわきまえること、転んでも怪我しない丈夫な身体を造ること、自分の身体を使って色々な事が出来るようにし自信が持てるようになること、合気道の稽古を通して人に対する思いやりの心・争わない心を育てること、技を覚える過程は勉強の成績を上げる過程と同じだと気付かせること、危機的な状況に遭遇した時でも平常心を失わずに行動できること等を念じながら拙い指導を行なっている。

 少年部から合気道を始め、大学生になるまで稽古を続けた子は、今までに僅か三人だが大学卒業後も稽古している子はまだ居ない。争わない武道・合気道の楽しさ、魅力を伝えられていないのではないかと自ら省みる。

2022年7月2日 | カテゴリー : めざせ達人 | 投稿者 : koukikai