第162回 執着心

日大アメフト部悪質タックル事件、監督とコーチから追い詰められた状況の中で、監督の指示を実行し、危険行為に及んでしまった。タックルされた選手の怪我が大事に至らなかったことは不幸中の幸いと言える。この事件には色々な問題点が浮き上がって来ているが、取り上げたい点は、危険行為を実行する決意をしたのは自分自身の判断だったということ。逆らうことのできない監督指示だったが、他に方法はなかったか、自分ならどう判断したかと思う。

日大アメフト部の内情を知らない第三者だから言えることは、“タックルしない”という判断が正解だと考える。ただ、問題に直面している状況下で、正しい判断ができるかどうかは疑問だ。私自身、これまで数々の誤った判断を繰り返して来たこともあり、あの歳の自分だったらどのような行動をしていたか自信がない。

私の二十代後半、どうしたら正しい判断ができるようになるのかと、悩んだ時期があった。行き着いたところは、“座禅”、“正しい呼吸”がもっとも大切だという結論にたどり着いた。「釈迦の呼吸法」(村木弘昌著)などの仏教書により、およそ一年間、一から十まで繰り返し数えながら座禅を行う数息観(すそくかん)を実践したところ、今までとは違う感覚が現れたことを記憶している。

過ちを犯したら反省し、二度と同じ過ちを繰り返さないように心がける。そのためには、失敗要因を取り除くことが必要だが、容易に取り除くことができないことが多い。日大アメフト部の監督の失敗は自分の地位名誉に執着したこと、加害選手の失敗は試合に出たいという執着心を捨て切れなかったこと。

合気道の稽古において、技をかける場合に注意すべきことは、執着心を持たないように心がけて稽古することだ。ひとつは、相手の手を握ると握った手にこだわりが生じるため、握らないようにしている。握る必要がある場合は、軽く握るように心がける。正しい判断ができない要因の一つは執着心、合気道の稽古も力を抜いて、心を研ぎ澄ませば“行”となる。

 

 

2018年6月2日 | カテゴリー : めざせ達人 | 投稿者 : koukikai