第63回 負けを知る

ある講習会でのこと、私より年配ではあるが気心の知れた稽古仲間の方と座技呼吸法の稽古を行なった。私が両手を前に出したところ、その方はさっと私の両膝の下に両手を差し込んでこられた。そして、あっという間に私は後ろにひっくり返されてしまった。全く予期せぬ意外な行動に唖然としたが、何事もなかったように稽古を続けている自分がいた。

一瞬の変化に対応することができなかった自分がとても悔しくてその時のことは決して忘れることはできない。しかし、それは一つの教訓として両膝を持ち上げてもひっくり返らないような座り方を今は指導している。やはり、色々な人と稽古しなければいけない。

いつもの稽古相手でも決して気を抜いてはならない、稽古相手が自分と同じ気持ちでいつも稽古しているとは限らないのだから。正面打ちの攻撃で言えば、相手が常に自分の面に向かって打ち込んでくると思ってはならない。遠慮がちな心優しい人は当たらないように外して打ってこられるし、人間関係を重視しない人は故意に移動先を狙って打ち込んでこられる。どちらが稽古になるかと言えば後者であるが、私たちが目指す至誠の人とは程遠い。

以前、通っていた道場に、熱心に稽古しているにもかかわらず黒帯になれない人がいた。黒帯相手に自分の強さをアピールすることが稽古目的のようになっていた。ついに、そこの道場長から認めてもらう事はできず、2年後、他の道場を見学している姿があった。問題はその人の人間性にあったようだ。

道場稽古は真剣に行なう必要があるが、“負けを知る”ことが大切である。また、自分の弱点を人から教わる姿勢が大切だと私は思う。道場は負けを知る稽古場であるが、道場を出れば真剣勝負の場であると思う。危機はいつ、どういう形で襲ってくるかわからない。日常生活こそ負けてはならない真剣勝負の場であると思っている。

 

 

 

2010年2月28日 | カテゴリー : めざせ達人 | 投稿者 : koukikai