平成七年の広島での講習会が先生との最後の稽古となりました。先生の肩をつかんだ瞬間に私の体が浮き上がり、気がついた時は先生の後方に転がっている。いつも何故そうなったのか理解できない。厳しいけれど、とても心地が良い。このように感じた事は山口先生以外にまだありません。
 この最後の稽古で生涯忘れることができない出来事が二つありました。一つは、受身の後、私の片足をつかまれた時でした。先生はいつものような笑顔でなく、真剣な表情で私の片足の指先をつかまれました。すると、私の体は全く力が入らず動く事ができません。わずかに首を持ち上げるのが精一杯でした。これは初めての体験でしたし不思議な感覚でした。
 もう一つはとても柔らかい先生の手でした。握った先生の手首が女性の手のように柔らかいのに一瞬ハッとしました。力強く握ったにもかかわらず、全く力みのない手でした。その感覚が今でも残っています。
 平成七年十一月の稽古は私にとって、強烈な印象を残しましたが、その二ヶ月後、七十一歳で他界されました。この稽古で感じた事は、先生から頂いた最後の教えとしていつまでも心の中に温めておきます。
 山口先生・・・ほんとうに有難うございました。(合気道光輝会 大畑博)